私は天使なんかじゃない







遠方より友来たる





  思い出は色褪せない.。
  ただし時として人の方は褪せていく。





  メガトンとウィルヘルム埠頭との協定成立から1日後。
  かつては国防総省と呼ばれ現在は要塞と呼称されBOSが司令部を置いている。
  その場所にキャピタル・ウェイストランドを代表する、様々な人物が招集されていた。
  メガトン共同体を代表してルーカス・シムズ、レギュレーターのソノラ、リベットシティの科学者であり評議員ま1人Dr.マジソン・リー、ジェファーソン記念館の責任者Dr.ピンカートン、ギャ
  ラクシー・ニュースラジオのスリードッグ、そしてタコマ・インダストリィにあったシークレットボルト発見者のライリー・レンジャーのライリー、フォークス。
  彼ら彼女らは会議室で円卓を囲んで議論を戦わせていた。
  議題。
  それは現在のキャピタル・ウェイストランドの状況。
  本来ならばエンクレイブの再襲来を議論すべきではあるものの、その前段階の厄介が山積みとなっていた。
  それら1つずつ議論し、情報を整理する。
  それが今回の招集の趣旨。
  議長でありまとめ役はエルダー・リオンズ。
  BOSの兵士やそれぞれが従がえて来た部下や仲間は別室で待機している。
  「それで? 俺はラジオの準備で忙しいんだ。とっとと終わらせちまおうぜ。……あー、いや、別に厄介は嫌だってわけじゃないんだぜ? 社交辞令とか挨拶とかは抜きにしようっことだ」
  「同感ね。私も研究があるから早くリベットシティに戻りたいのよ」
  「分かった。Dr.ピンカートン、現在の状況を話してほしい」
  「ワシがか? まあいい。ワシが関わった件に関する、時系列だけを話そう。最初の方はあいにく体験学習してないがね。COSがFEV入りの水をテンペニータワーに運ぶ、テンペニータワーで
  FEV水でグールを殺す、混入してない水もあるから結局は武力で皆殺し、アンダーワールドにも運ぼうとする、BOS部隊と鉢合わせ、そんな感じじゃ」
  「……意味が分からない。端折り過ぎじゃないの?」
  「俺もだ」
  ライリーとルーカス・シムズは困惑した声で呟く。
  同調したのはスリードッグだった。
  「確かにな。FEVは、まあいい。あれだろ、スーパーミュータントにするやつ」
  「まあ、そんなようなもんじゃ。正確には強制進化を促す代物じゃよ」
  「で? COSって何だよ? 衛星放送の仲間か?」
  視線がエルダー・リオンズに集中する。
  COSはBOSの暗部。
  彼としては出来るだけ話したくはなかったが、そう言っている場合でもなかった。
  状況が不透明過ぎる。
  誰が関わってて、何が関与してて、どうしてこんな厄介なまでに捻じくれた事件になっているのか、1つずつ解いていく必要がある。
  「COSとはBOSの強硬派、と言っておこう」
  「ほう? 強硬派、ね」
  「要塞にもCOSに同調している者たちがいた。5名。グールを優遇するのを嫌い、COSに加盟していた。全員自殺した」
  「そりゃまた何で? 監視がずさんじゃないのか?」
  「痛いところだ。要は、監視していた者も同調者だった。とはいえ逃げれはしないからな、口を割られる前に殺したのだろう。自殺を促したのかもしれない。監視していた者も自害した」
  「おいおいマジかよ。これは、オフレコ、だよな?」
  「出来たら放送はしないでほしい。COSにこれ以上警戒はされたくない。もっとも連中の本隊はポイントルックアウトにいるようだが。娘に調査部隊を預け、向かわせた」
  「真実といえ、そっちの作戦行動まで暴露するつもりはないよ」
  「感謝する」
  15名編成の部隊をベルチバードで投入。
  目的は調査。
  それと同時にキャピタル・ウェイストランドで、意見の相違によって分裂したOCの一派もポイントルックアウトに向かったという情報をBOSは得ていた。情報部はCOSとの合流するためと
  見ていたし、エルダー・リオンズもそう思っていた。
  「リオンズ、おかしくない?」
  疑問をDr.リーが口にする。
  「おかしい、とは?」
  「話を聞いているとグール嫌いで、それを抹殺するためにFEV入りの水を配ってるのよね? 当たり外れありの。結局は武力で皆殺し? 何故そんな手間をするのかしら」
  「そこが頭が痛いところなのだよ」
  そう。
  COSがどこからか調達したアクアピューラにはFEVが混入されている。
  しかし全部ではない。
  何故全てに混入してグールを全滅させないのかが謎だった。
  結局武力で皆殺しにするのに。
  「それにじゃ。FEVに感染したら変異して普通は死ぬはずじゃ。適応して生き延びる可能性もあるじゃろうけどな。グール達は全員死んだ。見ていた者が言うにはいきなり死んだらしい。
  それにブッチ・デロリアという青年は飲んでも死んでおらん。変異もしてない。能力者になった? いやいや、健康体から何も変わっておらん。意味が分からん」
  「シークレットボルトが出所ではないだろうか」
  挙手をしてフォークスが口を開く。
  「時期的には多少ずれておるな。FEV混入の水が出回っている方が多少早い。それに、たぶん種類が違う」
  「種類?」
  「FEVは変異を促す。大抵は耐え切れずに死ぬ。まあ、濃度によるが。グールは変異せずに死んでおる。アンダーワールドの医者曰く血液検査の結果何ともないらしい。では何故死ぬ?
  グールにだけ作用するのか? かもしれん。ブッチが無事だからな。じゃが、グールだけ殺すウイルスを作れるのに、何故中途半端なのかということになる。全部に何故入れない?」
  「博士、ではあそこは別件だと?」
  「だろうな。少なくとも時期は合わない。種類に関しては調べてみないと分からんが……エルダー・リオンズ、ボルト87のFEVはどうなった?」
  「エンクレイブが侵入したとティリアス……いや、赤毛の冒険者の一連の報告書にあった。あの施設にはほとんど残っていなかった。教授という奴が使い切る寸前だったのか、エンクレイブが
  奪ったのかは知らんがほとんどなかった。残っているのは処分した。出所はそこではあるまい」
  「私も発言していいかしら」
  傭兵のライリーが言う。
  もちろん誰も異論がない。ここは議論をする場所なのだから。
  「じゃあ言うわ。あの場にいた金髪の科学者、後ろ姿しか見てないけど、そいつはタロン社とレッドアーミーを従えてた。それが何を意味するのかは私は知らない。だけどFEVを入れる為の
  アクアピューラの出所は何となく分かる。傭兵仲間が言ってたのよ、1本100キャップで買うグールがいるって」
  「そりゃまた豪気じゃな」
  「それだけのキャップがあるってことはかなりの背後関係だと思うわ。私が言いたいのは、それだけ」
  ここで議論が途絶える。
  総合すると繋がっているようで、あやふや。意味があるようで意味がない、誰もがそう思っていた。
  スリードックが言う。
  「なあ、俺たち思い込みで言ってないか? 繋げるのはよそう、ばらして考えよう、繋がっているにしても繋げ方を間違っているかもしれない」
  「ああ。私もそう思う。COSとはグール抹殺を掲げる組織なのか?」
  「いや。差別主義者ではあるが別段そこまでグールを目の仇にはしていない……ああ、そうか……要塞のCOSとグール殺しのCOSは別物という考え方もあるのか」
  リオンズは思う。
  確かにグール殺しにCOSが関与していると騒動になった要塞内で、挙動不審で逮捕され、尋問の結果COSだと判明した者たちの言動は確かにおかしかったと。
  連中は本隊のサポートの為に要塞内を監視していただけではないかと。
  となるとあのCOS部隊は何者だろう?
  「Dr.マジソン・リー」
  「何、リオンズ?」
  「他の評議員も数名呼んだはずだが、欠席の理由は知っているかね?」
  「皆、評議長になる為に勢力拡大と賄賂で大忙しよ。もしかしてリベットシティを疑ってる? 差別主義者はいるけど、ここまで大金使って虐殺する奴はいないわ。それだけのキャップがある
  なら自分の為に使う連中よ。特にパノンとかね。それに、グール嫌いで拗れてやってるにしても、1本100キャップなんて、さすがに無理よ。莫大な金額になるわ」
  「よおよお、俺は放送絡みでニュースがバンバン入って来るんだが、放送でも言ったけど最近妙な疫病が流行っててたくさん死んでる。それもFEVじゃないのか?」
  「何なんだこの事件はっ! 何の意味があるっ!」
  憤ってルーカス・シムズが叫んだ。
  グール虐殺。
  それだけではなく一般の人間にも出回り、殺している節がある。
  「意味なんてないのかも」
  Dr.リーがぽそりと呟く。
  「無差別ってやつかの? となると厄介じゃな。特定するのは、大金持ちで、組織力があり、FEVを持ってる奴。しかし分からんのは何故ブッチは死ななかったのかじゃ」
  「話は実は簡単じゃないのか? エンクレイブだよ、連中の仕業という線はあるんじゃないか?」
  疑問は尽きない。
  憶測も。
  怪しいと言えばOCも怪しくなってくる、それだけ、全体像が全く分からない事件。
  無差別だとしても思想はある。
  その目的も。
  ゲーム的にFEV入りの水をランダムで配っているにしても、グール根絶が目的だとしても、規模が大き過ぎる。尋常ではない。
  「レギュレーターのソノラ、何か意見はないかね? ずっと黙っているが」
  イスに深く腰掛けて流れを見守っていたソノラを皆が見る。
  冷たい視線のまま微笑。
  「何もないわ。帰らせてもらう」
  立ち上がる。
  ルーカス・シムズも立ち上がろうとするもそれを制した。
  「あなたは今回メガトン共同体として動いている。そのまま動きなさい。この一件が終わるまでね」
  「分かりました、ソノラ」
  「では御機嫌よう」



  要塞。通路。
  部下を2人従がえてソノラは進む。
  彼女としてはここにはもう何も用がない。
  従がっているのは黒人で長身の男性と右目に眼帯をした白人の男性。
  「トビィ」
  「はい。ソノラ」
  「あなたはこのまま私と一緒にレギュレーター本部に行きます。……まだ立ち上げ準備中で居心地は悪いですが、仕方ありませんね。ラドック」
  「何でしょう、ソノラさん」
  「あなたはリベットシティに詰めなさい。FEV入りかどうかは別として、アクアピューラはあそこに一度集まり、街々に運ばれる。追跡しなさい。どこで邪魔が入るのか、どこに運ばれるのか」
  「了解しました」
  眼帯の白人、ラドックは小走りで彼女の脇を通り過ぎて去る。
  ソノラは会議には興味なかった。
  情報収集の為の出席だった。
  もちろん会議に興味がない、というのもあるが、正確には誰が信用できるか分からない状況だった、レギュレーターは誰とも組まない、単独で、孤高に正義を貫く。
  その方が後腐れないし、単純だからだ。
  「さあ、悪党狩りを始めますよ」





  メガトン。
  ノヴァ&ゴブの店。午後二時。昼飯時も終わり、客もまばらとなっている。
  この俺、用心棒のブッチ様は壁にもたれかかって店内に睨みを利かせている。と言っても客はもうほとんどいない。
  トロイはモップで磨いているし女性たちはもてなす客がいないから奥に引っ込んでる。今いる客は3人、1人は爆睡、2人はもてなし不要のオーラで過去の思い出談義だし、ノヴァさんたちは引っ込んでる。
  カウンター席には毎度お馴染みの酔い潰れ野郎ケリィ。
  このおっさん、毎日来てるな。
  仕事してないのか?
  確かスカベンジャーだったか。
  ……。
  ……そういや犬はどうしたんだ?
  ジェファーソン記念館の時は連れてたけど……まさか食ったんじゃないだろうな……?
  さて、客はテーブル席にもいる。
  こっちも毎度常連の爺ズ。

  「昔はよかった。核爆弾があった頃は信者たちは誰もが敬意を払ったもんさ。だが核爆弾が赤毛の冒険者に解体され、エンクレイブに持って行かれたら教団はアボーン。今じゃ信者どもは
  マザー・キュリーに付いて行っちまった。ふん、何がマザー・キュリーだ。弟子の、それも出来の悪い弟子の分際で」
  「分かる。分かるよ。昔はよかった。エンクレイブを頑なに信じていれば救われた。なのに今じゃ心の支えにもならん。むしろ空しいだけだ」
  「飲もう。とことん飲もう」
  「ああ。飲むとも」

  常連の爺ズの会話。
  意味分からんが、昔を懐かしんでいる。
  贖罪神父とかいう自称のクロムウェルと元エンクレイブ好きのネイサンという爺さんは過去を懐かしみ、ここで大体管を巻いて飲んでいる。時間は不定。朝だったり昼だったり、夜だったり。
  とりあえず飲み代は不自由しないらしく毎日来てる。
  まあ、別にいいけど。
  楽しく飲むのも過去を懐かしむのも管を巻くのも、どんな飲み方するにしても、それが酒場ってもんだ。
  俺も早く一杯やりたいぜ。
  「……」
  とはいえ客がいる限りは用心棒だからな、警戒しないと。
  腰の二丁の9oピストルは飾りじゃないぜ。
  「相変わらずしけた店だな」
  「いらっ……」
  客が入店。
  カウンターでコップを磨いていたゴブは挨拶を途中で飲みこんだ。
  何だ?
  コンバットアーマーを着た、若干禿げ上がった男が来店。
  アサルトライフルを担いだ眼光の鋭い男。
  傭兵か。
  俺は睨みを利かせる。トロイは傭兵にビビったのかへたへたと尻餅ついてた。
  傭兵はこちらを一瞥して鼻で笑っただけ。
  何だ、こいつ?
  「接客の挨拶はどうしたんだ、ゴブ? モリアティの奴隷辞めたからって礼儀を忘れてるんじゃないだろうな?」
  「……いらっしゃい、ジェリコ」
  「そうだ。それでいい」
  「前にピットから来た奴と一緒にミステイを騙したあんたが、今更ここに何の用だ?」
  「騙した? そいつは違うな。俺は傭兵だ、金になるなら働く、それだけだ。仕事なんだよ、仕事。赤毛のくそ餓鬼の都合なんざ知るか」
  ジェリコとかいう奴ゴブの知り合いなのか?
  赤毛を騙したとかって何だ?
  敵か?
  こいつ悪党なのか?
  「何だ、餓鬼、何見てやがる」
  「用心棒だからな。不審な野郎は睨まなきゃよ」
  「小便餓鬼が粋がりやがって」
  「ブッチ様に対してそんな口利くってことは、ぶっ飛ばされたいのか、おっさん」
  「お前に興味はないよ、ブッチ・デロリア」
  「あん?」
  何だってこいつ俺の名前知ってんだ、フルネームで。
  ジェリコは俺に興味をなくしたのかカウンター席に座る。ケリィの隣に。
  「ようケリィ。久し振りだな」
  「ぬぉー、ぬぉー」
  「……相変わらず妙なイビキだな。いやイビキなのか、それ? 新種の生き物なんじゃねぇのか、お前? まあいい、ゴブ、酒だ、スコッチ瓶ごと寄越せ」
  客といえば客なのか。
  トロイに立ちあがって奥に行くように言って、俺は仕事に戻る。集中しないとな。トロイはゴブに裏に保管してあるビールケースのビールを冷蔵庫に入れて冷やすように指示され、奥に消えた。
  夜の分のビールを冷やしておかなきゃいけない時間帯か。

  「あー。本当にいた」
  「よお、トンネルスネークっ!」

  「ん?」
  新たなお客来店。
  2人。
  ボルト101のジャンプスーツを着た男女。見知った顔。男の方はナップを背負っている。
  「ゴブ、挨拶しろよ」
  「い、いらっしゃい」
  ジェリコうぜぇ。
  今日のゴブはおどおどし過ぎだぜ。
  まあいい。
  それにしてもまさか2人がここに来るとはな。売買するために不定期で何人か来ているが基本はセキュリティだけだった。若い連中、というか、同年代が来るとは珍しいぜ。
  「久し振りだな、スージー、ウォーリー」
  2人はボルトの人間。
  俺と同年代で、そして2人は兄妹。
  フルネームはスージー・マック、ウォーリー・マック、マック家の人間。ウォーリーだけはいつの間にか仲間内ではワリーと呼ばれてる。何故かは覚えてない。
  優等生と親父さんが脱走した際にラッド・ローチが侵入、その時に長男でセキュリティだったオフィサー・マックはラッド・ローチに噛まれて死んだらしい。
  10oピストルを2人とも腰にぶら下げていた。
  「何してんだよ、ここで」
  「ブッチの近況を見に来たのよ。買い出しのついでに」
  「そうだぜ、感謝しろよ?」
  スージーは多少天然だがいい奴だ。
  ワリーは、まあ、昔からのダチだが道が多少違ってしまった。昔はこいつもトンネルスネークだったけど、優等生がいなくなった辺りから監督官寄りになって離脱した。
  もちろん友人であることには変わりがないけどな。
  「よく親父さんが許したな」
  こいつらの親父はかなり口やかましい印象だ。というかうるさい。ボルト至上主義で外を極端に嫌ってる。
  「修理の為だよ、ブッチ」
  「修理?」
  「Mr.アンディ覚えてるだろ?」
  「覚えてるというか本当に最近までボルトにいたんだぜ? 忘れる方がおかしいだろ。あいつともダチだよ。それが?」
  Mr.アンディ。
  ボルト101で稼働しているMr.ハンディ型のタコロボット。
  「今のところボルトには医者いない。まあ、知ってるよな? アマタが育成してるんだが今日明日でなれるわけじゃないし。でMr.アンディに医療の知識をダウンロードして暫定的に医者
  にしたんだけどよ、あいつつま先を怪我しただけのベアトリクスの足を切断して殺しちまいやがったっ!」
  「……おいおいマジかよ……」
  あいつやぺぇな。
  「その修理に来たんだよもこの街に。あと色々と不足品が目立ってきたから大所帯でここに来たんだ。俺たち外に興味あったから紛れ込んできたのさ」
  「なるほどな」
  「ブッチ、仕事はいいから部屋で話してきたらどうだ」
  ゴブが勧めてくれる。
  最高だぜ、オーナーさんよ。
  「部屋行こうぜ。飲みながら話そう」
  「いいな」
  「私は悪いけど、抜けるね。外にはお化粧とかあるんでしょ? 洋服とかっ! 見て回りたいの。じゃあね」
  「人通りの少ないところには行くなよ」
  「オッケー、ブッチ。じゃあね」
  スージーはウインクして店を出て行った。
  店は相変わらずの様子。
  爺ズは思い出談義、ジェリコは爆睡してるケリィの隣で飲んでるだけ……2人は昔の仲間なのか?……お言葉に甘えて抜けるとするか。
  「後で酒でも持っていくよ」
  「マジか。わりぃな」
  俺はワリーを連れて二階にある自分の部屋に。
  正確には借りている、部屋に。
  「入れよ」
  「良い部屋じゃないか。何というか、レトロで」
  「ボルトみたく滅菌はされてないけどよ、いいとこだぜ、外の世界は」
  この部屋はトロイと俺で借りている。
  2人では手狭ではあるが、そこまで狭いというわけではない。ベッドが2つ並んでいる。さすがに野郎同士でベッドインするのは勘弁だったからな、増やしてもらった。だから狭く感じる。
  俺はホルスターを外してベッドの上に放った。
  「ベッドにでも座れよ」
  「ああ」
  「で? ここにはいつまでだ?」
  「修理が済み次第だ」
  「どこに泊まるんだよ? ここにはそんなに宿泊施設はないぜ?」
  「さあ? 親父に聞かなきゃ」
  「親父……ああ、来てるのかよ」
  「今回の遠征隊のリーダーだよ。そんなに毛嫌いするなよ、ブッチ」
  「苦手なだけだ。悪いな」
  「いいさ。俺もお前のおばさんは苦手だし」
  「そ、そう言われると、へこむな」
  「お互い様だ」
  2人で笑う。
  ワリーはナップから何かを取り出す。PIPBOYだ。ボルト住民だから通常装備として全員付けている。ワリーもスージーもだ。今もしてる。となるとこれは誰のだ?
  倉庫からパクッたのか?
  まさかアマタがPIPBOYを売りに出すとは考えられない。ボルト住人には必要な物だからだ。
  「どうしたんだ、それ。よく数多の目を掻い潜って盗めたな」
  「これ売ったら幾らするんだ、その、外の世界で」
  「幾ら」
  多分途方もない額になるのだろう。
  だが俺は商人ではない。
  肩を竦めた。
  「乙女心は手に入るぜ」
  「はあ?」
  前のPIPBOYのお蔭でノヴァさんと仲良しになったからな、嘘は言ってない。
  今してるのはその後アマタに新たに貰ったやつだ。
  「それどうしたんだよ」
  「スタンリーの間抜けから拝借したのさ」
  「スタンリー? ああ、原子炉区画のメンテナンスの爺さんか。お前悪い奴だなー」
  「外で遊ぶには金がいるからな」
  「何だよ、どんな遊びするつもりなんだよ?」
  「そりゃブッチ、羽根伸ばす意味で外に来たんだぜ? 当然、大金積んででも脱童……」

  こんこん。

  部屋の扉がノックされる。
  もしかして酒の差し入れか?
  俺は立ち上がって扉を開いた。扉の向こうには赤い帽子の男が立っていた。セキュリティアーマーを着ている。そしてアサルトライフルの銃口をこちらに向けていた。
  男は笑顔で言う。
  「こんにちわー死ねーっ!」

  バリバリバリ。

  焼けるような痛みが全身を襲う。俺は衝撃で吹っ飛び、その場に倒れた。
  あっ、床がだいぶ汚れてるな。
  今度掃除しないと。
  ワリーの声が響く。
  「こうなることをずっと夢見てたんだ、ざまあみろっ!」
  蹴られた。
  正確には顔を蹴られたような、感じだ。感覚が段々と遠ざかっていく。
  「親父、ミスティの方はどうなったんだ? 殺せたか? あの、ボルトの平穏を破った悪魔をよっ!」
  「部下たちがあいつの家に突入した。今頃八つ裂きだろうよ。行くぞ」
  「ああ。あばよ、トンネルスネーク(笑)」
  去って行く2人。
  段々と意識がなくなっていく。
  何だよ。
  何でだよ。
  俺たちダチだったじゃねぇか。
  「……トン……ネル……スネ……ク……」